第7話

和也はうつむき、靴の甲に跳ねた血を見つめた。

そして、床にへたり込む葵に視線を移す。

しゃがみ込むことも、手を差し伸べることもしなかった。

「葵」歯の隙間から絞り出すような、氷のように冷たい声だった。「こんな真似をして、俺の気を引きたいのか?」

口元を覆う葵の手はまだ震えていた。血が手首を伝い、絨毯へと滴り落ちる。

彼女は彼を見上げた。その瞳の奥には、もはや何の感情も宿っていなかった。

「血を吐いてみせれば、俺が絆されるとでも? 寧々にしたことを不問にするとでも思ったか?」和也は一歩後ずさった。まるで彼女に靴を汚されるのを嫌悪するかのように。「芝居をするなら、もう少し気の利いたやり方にしろ」

葵は何も答えず、ベッドの縁を支えにしてゆっくりと立ち上がった。

足に力が入らない。膝を床についていた時間が長すぎたせいで、立ち上がった瞬間に体がぐらついた。

和也はすでに背を向け、スマホを手に取ってどこかへ発信していた。

「寧々、家で待っててくれ。今から迎えに行って、病院で検査を受けさせるから」

通話を切り、ドアの前に歩み寄って二秒ほど足を止めた。

振り返ることはなかった。

「床を綺麗にしておけ」

ドアが閉まった。

葵は寝室の真ん中に立ち尽くしていた。口元にはまだ拭ききれていない血がこびりついている。

うつむいて、絨毯にできた暗赤色の染みを見つめる。膝にも血がつき、パジャマの袖口も濡れていた。

彼女はしゃがみ込み、ナイトテーブルのティッシュを取って、少しずつ絨毯を拭き始めた。

落ちない。血は繊維の奥まで染み込んでいた。

長い時間をかけて拭き続け、ティッシュを箱の半分以上使っても、絨毯にはどす黒い跡が残ったままだった。

ティッシュを捨て、洗面所へ向かって手を洗う。

蛇口から流れる水は赤から薄紅へ、そして最後には透明へと変わった。

葵は顔を上げ、鏡を一瞥した。

そこに映っていたのは、生気というものが一切ない顔。

彼女はスーツケースを開き、クローゼットにあるわずかな衣服を詰め込んだ。

古いノートパソコン、薬の袋、身分証。たったこれだけだ。

ファスナーを閉めようとしたとき、スマホが鳴った。

葵は画面を見つめたまま、すぐには出なかった。

三回目のコールで、ようやく応答ボタンを押す。

「若奥様、執事からの追加のご連絡です。由幸様の祝宴は明後日の夜に予定されております。由幸様のご意向で、若奥様と和也様には一日早く本邸へお戻りいただき、前乗りのご来賓の対応をお願いしたいとのことです」

スーツケースは彼女の足元にあった。

「明後日?」

「はい。由幸様から、一族全員が必ず揃うようにと厳命されております。特に若奥様と和也様は最重要とのことで。当日は取引先の社長様方も数名ご出席されますので、ご夫婦揃って顔を出していただきたいそうです」

葵は五秒ほど沈黙した。

「わかりました」

通話を切り、ファスナーの閉まったスーツケースを見つめた後、再び身をかがめてそれを開けた。

衣服をクローゼットへ掛け直す。

和也に、一日早く本邸へ戻る件を伝えなければならない。

発信すると、コールが四回鳴った。

「もしもし?」

またしても、寧々の声だった。

葵はスマホを握りしめたまま、声を出さなかった。

「葵ちゃん、和也くんは今、私と一緒に病院にいるの。先生のところへ行ってるわ」寧々の声には、微かな同情が混じっていた。「葵ちゃん、何度も電話してくれてるみたいだけど、和也くんずっと手が離せなくて。何か用があるなら私に言って? 伝えておくから」

葵は喉の奥に込み上げる血の匂いを堪えた。

「メッセージを見たら折り返すように伝えて」

「わかったわ」寧々は少し間を置き、誰かに聞かれるのを恐れるように声を潜めた。「葵ちゃん、忠告しておくけど、和也くん今すごく怒ってるの。今日あなたが血を吐いたこと、わざとやったと思ってるみたい。これ以上、彼を刺激しないほうがいいわよ」

葵は何も返さなかった。

寧々はさらに続けた。

「実は脅迫状の件、私はあなたの仕業だなんて一言も言ってないの。和也くんが勝手にそう思い込んでるだけで。安心して、後で私から彼に説明しておくから」

どの言葉も隙がない。

説明してあげるということは、つまり説明しなければならない状況だということ。

名指ししていないということは、すべての証拠が葵を指し示しているということだ。

葵は通話を切り、和也にメッセージを送った。

『お爺様の祝宴は明後日。一日早く本邸に戻るようにとのこと。詳細は執事に確認して』

送信を終えると、スマホをナイトテーブルに置き、顔を洗ってからベッドに入り、明かりを消した。

胃がまだ引きつっている。鎮痛剤など、とうの昔に効かなくなっていた。

横向きになり、体を丸め、枕を胃のあたりに押し当てて、その絞られるような痛みを必死に堪えた。

どれくらい経っただろうか。意識が遠のきかけたその時、突然寝室の明かりが点いた。

外から乱暴にドアが開け放たれ、壁にぶつかって鈍い音を立てる。

葵は弾かれたように目を開けた。

和也が入り口に立っていた。顔面は蒼白で、手にはスマホを握りしめている。画面の光が彼の顔を照らし出し、陰影によってその目鼻立ちをいっそう冷酷に見せていた。

彼は大股でベッドに近づいてきた。

「自分のしでかしたことを見てみろ!」

スマホが葵の目の前に投げつけられた。

画面に表示されていたのは、一枚のスクリーンショット――

あるSNSアカウントから、寧々宛てに十数件ものダイレクトメッセージが送りつけられていた。

『クズはY市から出て行け』

『ぶりっ子め、そのうち痛い目見せてやる』

『泥棒猫は地獄に落ちろ』

送信時刻は一時間前。

葵の目の焦点がまだ定まらないうちに、再び胃が激しく収縮した。

彼女は腹部を押さえながら身を起こし、かすれた声で言った。

「私じゃない」

「アカウントのIPアドレスは、この別荘のWi-Fiだ」和也は身を乗り出し、ベッドの両側に手をついて彼女を逃げ場のない状態にした。「まだ何か言い逃れがあるか?」

葵の頭の中を、思考が猛スピードで駆け巡る。

別荘のWi-Fi――

サイバーセキュリティの専門家である彼女にとって、そんなものがどれほど簡単に偽装できるかなど百も承知だった。

「IPなんて偽装できる。あなたも知ってるはずよ」

「いい加減にしろ!」和也の手が、葵の手首を乱暴に掴んだ。骨が軋むほどの強い力だ。「俺がお前に手を出さないと思っているから、そうやってどんどん図に乗るのか?」

葵は痛みに顔をしかめたが、抵抗はしなかった。

顔を上げ、和也の目を見つめる。そこにあるのは怒りだけ。

寧々のための怒りだ。

口を開いて何かを言おうとしたが、それよりも先に喉の奥から熱いものが込み上げてきた。

間に合わない。

葵は咄嗟に顔を背け、真っ白な枕カバーの上に血を吐き出した。

目に刺さるような鮮血。

彼女の手首を掴んでいた和也の手が、その場で硬直した。

葵の体は激しく震え出し、立て続けに二口目の血が溢れ出る。彼女は身を屈め、ベッドの上で丸くなりながら口元を覆ったが、指の隙間から血が絶え間なく滲み出た。

寝室には、彼女の押し殺したような咳き込む音だけが響く。

枕も、掛け布団も、彼女のパジャマも、至る所が血まみれになり、目を覆いたくなるような惨状だった。

和也は手を離した。

葵の手首にはすでに青紫色の痣がくっきりと残っていた。彼女は布団の中に縮こまり、咳が止まらず、血が襟元を赤く染め上げていく。

和也は一歩後ずさった。顔にはまだ怒りが残っていたが、その瞳の奥には、言葉にできない何かが混じっていた。

「お前、一体どうしたんだ?」

葵は長い時間をかけて呼吸を整え、ようやく枕から半身を起こした。口元にはまだ拭き取られていない血がこびりつき、喉の奥から削り出すような声で言った。

「癌よ」

和也は一瞬、呆然とした。

葵は息を弾ませながら、ナイトテーブルの引き出しから、すでに端が擦り切れるほど折り畳まれた確定診断書を取り出し、彼に向かって差し出した。

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